2002年度谷和原村手話奉仕員養成講座カリキュラム作成<第17回>9/12(木)講座報告

1.本日の日程は・・・

日程 内容 テキスト
11 9/12 長編ドキュメンタル・アニメーション映画「どんぐりの家 お休み

ということでした。

2.ひたすら感激の上映会・・・涙、涙、涙

3.「せたつむりの原点に返ろう!」と思いました。

4.敬愛する鈴ケ嶺さん(たましろの郷職員)からもパワーをもらいました!

「ろう重複施設の現場から」

 もう20年近く前になるでしょうか。手話を始めて間もないころ、ろう学校の見学に行く機会がありました。思えばそのとき目にした光景が、この世界へのはじめの一歩でした。
 生徒の背中に字を書く先生。うまく動かない手で、手話のような身振りのようなしぐさで語る生徒。聞こえないのに手話以外の世界がある−これには驚き、そしてなぜか引きこまれ、どっぷりとつかってしまうことになったのです。
 ろう重複の共同作業所かたつむりに押しかけで就職したときに2人だったなかまは、13年間で21人に増えました。この間、まさにドッキリ、ハラハラ、ワクワクの毎日でした。
 「ガッシャーン」。昼食の最中に突然茶碗を落とす人。急に怒りだし、壁に自分の頭をぶつける人。物を投げる。お漏らしをする…。たくさんの、世に言う「問題行動」の連続。「どうしたの?」「どうして?」と問いかけても、答えることのできないなかまたち。私たち職員は「どうすればいいのよ?」と戸惑いあわてるばかりでした。
 毎日のように茶碗を落とす人は何が言いたいのだろう。機嫌が悪い? 嫌いなものがある? 横に座った人が嫌い…?怒って頭をぶつける人。怒る前に何をしていたっけ? あの身振りはどういう意味だったの…? 原因を探ろうと話し合いを始めると職員会議はいつも止まるところを知りません。
 ようやく、「もうご飯を終りにしたいという意味じゃないか?」ととりあえずの結論が出て、毎日様子を見ながら『終わり』の手話を繰り返し表現。するとある時、その人がスッと立って『終わり』の手話をし、おぼんを持って茶碗を流しへ運んで行くではないですか。もう、こういう時の嬉しさは、なんとも言えません。ワクワクの所以です。
 しかし、いつもこうは行きません。何度話し合っても、どんなに注意深く行動を見ていても、わかってあげられないことの方が多かったと思います。それでも「行動の意味をつかめるまで待て」、「相手が意味をつかめないのにダメという手話を使うな」、「一人で判断するな。職員も集団だ」という花田所長の3大指導の下、わが娘以上に付き合ったかたつむりのなかまたちでした。(よく文句を言っていた娘も、今ではかたつむりのボランティアです) 
 今年1月、待ちに待った就労・生活施設「たましろの郷」がオープン。私もこの施設の職員となりました。ドッキリ、ハラハラ、ワクワクはかたつむりと同じです。なかまたちはよくケンカもします。それでもさっきまでケンカしていた相手がうまくコマで遊べないのを見て「教えてやるよ」と肩をたたいたりしています。不思議な力でお互いに引き合う仲間意識がろう重複の世界にあるような気がします。そして、それは彼らが自分の言い分をなかなか理解されずに苦しんできたからこそだと思わずにいられません。
 ろう重複者の一番の障害は、やはりコミュニケーション障害だと思います。自分の言いたいことを伝えられないもどかしさが、いつも伝わってきます。
 しかし、その障害は職員だけでなく、同じ聞こえない方たちや手話を学ぶ方々、近所の人たちみんなが少しずつ彼らと関わってくださることで軽くなり、その結果、ろう重複の人たちが、もっといろいろな集団の中で生き、働くことができるようになると信じてやみません。
鈴ケ嶺 真弓(すずがみね まゆみ 社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会「たましろの郷」職員)

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