全通研福島集会 参加報告

期日;2002.02.09(土)〜10(日)

会場;福島学院短期大学(福島県福島市)

U.手話通訳のしごと          司会;宮沢(宮城)、加藤(静岡)、笠松(愛知)、

助言者;安藤

 

 第6分科会「手話通訳者の養成」(この分科会ができて3回目)

 <討議の柱>

1.今後望まれる手話通訳者像、何をどのように育てるのかについて

2.手話奉仕員養成講座と手話通訳者養成講座の担う社会的役割をふまえた運営体制の整備について

3.新しいカリキュラムに沿った指導、テキスト(基本・応用・実践)を使用しての成果と改善点について

 

<これまでの討論経過>

・第1回(? )

 

・第2回(奈良)

1.通訳者像;

2.運営方法;制度的な課題

3.指導方法;実習、終了試験、評価方法

 

<レポート発表>

1.福島;「福島県における手話通訳者養成の現状と課題」…ほぼレポートどおり

2.長崎;「長崎県における手話通訳者養成の現状と課題」…スミマセン、すっかり居眠りしておりました。

質問)面接はあるのか?⇒回答)佐世保市のみ。他は定員に満たなかった。

司会)受講試験をやってる県は?;5〜6県、やってない県;2〜3県

試験が必要かどうかは明日討論したい。

3.東京;「ロールシフトの接続詞的用法の指導−『反応』をめぐって」木村・市田

木下コメント;面白かったのですが、紙面で再現するのは至難の業です。

  ・ロールシフト=話者が現在の話者以外の他者の役割を演じること

        「反応」··· 1.知覚系の「反応」··············· 何かを見たり知ったりしたときの直接的な反応

         ※〜した(その結果わかったことは)

          例文)久しぶりに会ったら

             調べてみると、その結果わかったのだが

          例)注意深い知覚、驚き、肯定的反応、否定的反応

        @行動型ロールシフト(知覚表現)+知覚系反応…「会う」

        A時関係経過表現+知覚系反応…「FAXした後〜」

木下コメント;実は、このあたりからほとんど理解不能でしたが、せっかくなので「ノートにメモしたこと」を報告してます。

 

            ··· 2.認識・判断・思考系の「反応」··· 見たり知ったりした後の認識・判断・思考の段階でおこる反応

         ※〜だった、それで思ったのは(痛感したのは)

          例文)食べてみた、やっぱり松阪牛だなと思う

             例)納得、不納得、肯定的評価、否定的評価、確信、不確信、解釈、想起、思考

           @知覚系反応+コメント+思考系反応

           A行動型ロールシフト +思考系反応…「日本に帰ってきたら〜」

    <例文>

    久しぶりに会ったら、とても太っていた。(ことがわかった)

    調べてみると、確かに時間が変更されていた。(ことがわかった)

    あまりのわからなさに、自分の勉強不足を痛感した

    食べてみたが、やはり松阪牛は味が違うと思った。

木下コメント;これらの例文も悲しいことに、どれが知覚系で、どれが認識・判断・思考系なのか、実は理解できなかったのです。(>_<) ただ、僕が感じたのは、レポート集にあるように「…「反応」の接続詞的用法は、手話の母語話者の自然な発話の中では頻繁に用いられているが、非母語話者の通訳場面ではほとんど現れることがない。それは、原発話の日本語に直接対応する表現が存在しないからである。」というところがポイントなのかな、ということです。

   

(1) 「見る」「知る」「納得する」など、日本語では知覚や認識・判断・思考を表す通常の語彙が用いられる場合

(2) 知覚や認識・判断・思考のプロセスが出来事の中に含まれているにもかかわらず、日本語ではそもそもそれらが直接的には言語化されない場合

の2つをキチンと区別すべきだ。特に(2)の場合は、手話への訳出にあたって、言語化すべき要素が欠落しがちである。

◇例文「…と思って調べてみますと、20代30代という若い介護者が増えてきて、全体の年齢を低い方へ引っ張っている。」

     ⇒手話では…「(調べてみた。)それでわかったことは…」というような形で、「反応」の接続詞によって前後の文をつなぐのがふつうである。

例文「生まれて5ヶ月くらいになると、保育器から出て母に抱かれました。その軽さに母は、『よくここまで生きてきたね。よく頑張ったね。えらかったね』と言って泣いたそうです。」

     ⇒手話では…「軽さを身体で感じ取り、そして次のように考えた」というプロセスを「反応」によって言語化する。

木下コメント;これらがキチンと言語化されないと「わかりにくい」通訳になる、と指摘しています。

  ・反応の接続詞的用法の習得について 木下コメント;後半は指導法についてでした。

    ロールシフト「反応」の習得は難しい。

理由;バリエーションが多い。

   短文では練習できない。

    具体的指導法

木下コメント;ここで、いくつかの例文がOHPに映し出されて、解説が加えられたのですが、それは、「指導法」というよりも「実際の指導の様子そのもの」でした。

例文「手術をしたが、すでに手遅れだった。」

  「資料を渡されたが、その量の多さに彼の苦労が並大抵でないと感じた」

  「湯船に肩までつかると、ようやく日本に帰ってきたという実感が…」

  「カレーの匂いに誘われて、夕食は我が家もカレーにしようと…」

  「以前はきつかった服が、ぶかぶかになって…」

  「前は入った服が入りません。いつの間にか太っていたのです。」

木下コメント;OHPの投影時間が短く、とても書き写せませんでした。例文は正確ではありません。

 

  <質疑>

  川崎・菊池;どのくらい効果が上がっているのか?

     木村;国リハ学院は今年から2年制になった。1年目は読み取り中心。「反応」の手話表現を見せて、それを「日本語として」どう処理するかを教えている。2年目から聞き取り通訳練習をやる予定なので、成果が出るかどうかは来年以降にならないとわからない。

  東京・大杉;ナチュラルアプローチの限界ということなのか?(自然には覚えられない文法項目があることを認めるのか?)

     木村;見ることによって自然に手話を身につけるナチュラルアプローチは、入門から中級までの指導法だ。このレベルでは文法指導は行わない。しかし、手話通訳指導、特に聞き取り表現通訳指導に用いるには、確かにナチュラルアプローチでは限界がある。

  東京・大杉;通訳は聞き取った内容を短時間に表出する技術だ。日本語の場合、その接続詞がどういう用法で使われているのかは、文の最後まで聞かないとわからない場合も多い。接続詞的用法を含む手話文の理解には対応できるが、日本語から手話への訳出(表現通訳)では、無理があるのではないか?
「反応」の手話は、理解は容易だが、表出は難しい。入門からこうした指導を行うのはいかがなものか?他の方法があるのではないか?
指導レベルには1)コミュニケーションレベル、2)理解(読み取り)レベル、3)表出レベルがある。

木下コメント;菊池・大杉組vs木村晴美・市田組のバトルはなかなか見応えがありました。このレポート上では、私の文章力不足でその内容の10分の1も伝えられませんが、これを見られただけでもはるばる福島までやってきた甲斐があったというものです。ろう者どうしのこうした議論が白熱するなんて、全通研討論集会のレベルが格段に上がってきていることを痛感しました。次回は茨城からも末森選手の参加が大いに期待されるところです。(*^_^*)

 

4.神奈川;「養成支援そして派遣へ」横浜ラポール外池さん…東京のバトル観戦に疲れてまた居眠りしておりました。スミマセン。

木下コメント;神奈川の外池さんは、一緒に参加した吉澤さんがたいへん誉めていらっしゃったので、彼女の報告にお任せしたいと思います。特に「副教材の充実」が素晴らしいって吉澤さんは話してました。私はどうも・・・いまひとつ興味が乗らなくて寝てしまった。ゴメンナサイ。

 

5.神奈川;「実践課程における場面設定について」神聴協 井上・米山

木下コメント;14年度応用・実践を担当する立場からたいへん参考になるレポートでした。(詳しくはレポート集をお読みください。)

 

助言者・安藤理事長のまとめ

(1)予算的な裏付け

(2)奉仕員養成講座は長く続く中で内容・スタッフが疲れてきている。

(3)これからは通訳者養成としてどうなのか?という中身が問われる。

(4)神奈川の先進的な取り組みをモデルとして各地で独自の取り組みを

(5)これまでのボラ+通訳養成から+専門的研究・養成に向けた取り組み始まった。

 

木下コメント;茨通研の機関誌にも書きましたが、夜はみんなで飲みにいきました。今年は一次会・二次会とも部屋がちょっと広すぎて、僕個人は今ひとつ盛り上がれませんでした。やっぱ飲み屋は隣の女の子の太ももが触れるくらいの狭い店にぎゅうぎゅう詰めが楽しいですネ! 来年の幹事さんよろしくご配慮ください。

<第2日目>

三重県支部;書籍『頸肩腕障害の記録・のんびりのんびり』買ってください。

 

・1日目のまとめ・(略;プリント参照)木下コメント;司会の人が苦労して1日目に出された意見をまとめてプリントを配ってくれたのですが、あまりにも「網羅的(出された意見が全部「課題」として書き込まれている)」で、結局何が「本日の討論の柱」なのかわからず分科会がスタートしました。例年感じるのですが、議論の進め方・司会の技法について私たちはもっと勉強しなければ「実のある議論」にすることはできないと思います。

<意見>

        理想的な手話通訳者像とは?

        日本手話をしっかり身に付けて欲しい。

<質問>

        講師会議の実態は?

        有料の講習会の実態は?

        90分間という時間の適切さ

<討議の3つの柱について>

1.「今後望まれる手話通訳者像」=ろうあ者の権利を守る手話通訳者像を身に付けて欲しい。・・・昨年、議論された。(略)

2.講師を担う方の資質    =手話通訳者やろうあ者問題の知識・意識が薄い。
指導者を養成する方法がわからない。

吉田(静岡);伝達講習会そのままでは役に立たない。時間がないし、金銭的にも余裕がない。各地でどのように「伝達」しているのか?

北海道  ;聴者講師は、もっと受講生の立場に立って考えて欲しい。

吉田(静岡);やさしいとか厳しいというのは、ろう者の背景とか理解した上での話しなのか、「ボランティアだから」というような甘えを感じる。

北海道  ;マイナスな評価・指摘ばかりでは、熱意を失わせてしまう。

大杉   ;受講者心理も考えて、つかんで、受講生との関係性が大切。

小薗江  ;「受講生の心理」はテキストにはない→具体的にはどういうことか?

大杉   ;例えば、声が必要かどうか? 例えば、聴者は教わった経験あるので、受講生を精神的にもバックアップできる。聴者講師が声でコミして、受講生の声を聞くことも必要だ。

吉田(静岡);口形でコミしてるろう者もいる。
講師の役割については伝達講習会のテキストに書いてあった。

 

木下コメント;この後、議論は散漫になってしまった。討論集会の持つ矛盾として

@            地域実践報告的なレポートが、「討議の柱」となかなか結びつかないためレポートをたたき台にした「討議」ができない。

A            参加者も自分の地域で抱えている課題にこだわってしまって、全国的な課題としての「討議の柱」で議論する力量がない。という2点があると思う。その上、

B            司会者が毎年のように変わるので、議論の積み重ねが参加者にフィードバックされない。司会者が討論テーマを絞り切れないのは、過去の経過が頭に入っていないからだし、参加者も各地のレポートを聞きに来るだけになってしまっている。(問題意識を持ち寄っていない。全国で議論したいという姿勢がない。あるいは全国で議論してもどうしようもないと考えている面も多々ある。)

 

司会   ;「3.指導理念」があいまいなので、これを中心に議論したい。例えばろう者は「指導書を読み込むことが難しい」と言われているが、どうか?

安藤理事長;カリキュラム・テキストはできたけど、講師養成の予算的な裏付けがない。県毎に専任の講師配置が必要。福島県に研修センター?

司会   ;講師団会議の様子は?

 

木下コメント;なぜかここからお金の問題に議論が傾いてしまった。(-_-;)

「2.有料講座について」

長崎   ;受講生から見てお金を払って受ける意味は議論されたか?

福岡市  ;36000円/年間。基本12000円。払ったら一生懸命になる、ボランティアでなく自分は勉強するんだという気持ちになる。

横浜   ;実績作りとして25回分は受講料を取った。

名古屋  ;基本=自腹を切って学ぶ。奉仕員25000円。お金を払わなければ学ぶ場所がない。有料になったから講師がより研鑽に努めるようになったかどうかは??

沖縄   ;3講座で2万円

川崎   ;2000円。認定講習会は別。

愛知   ;交通費3000円かかる。年間5万円なら地元の方が得。行政から責任放棄。仕事としてやるなら有料で当然。

安藤   ;手話奉仕員養成は厚生省だが、メニュー事業であり。

静岡   ;合格した後の保障は?有料で受講しても合格後の活動の場はあるのか?

長崎市  ;実習の評価担当は?

;全国統一試験をやったか?

 

木下コメント;第6分科会「手話通訳者の養成」はなかなか面白い分科会です。参加した吉澤さんとも「茨城でももっとろう者と聴者がこんな風に講習会のあり方について広く議論できたらいいね」と話していました。日頃はどうしても目先の講習会の準備が大変なので、ゆっくりと3つの柱について議論できたらいいなと思います。それは、今回の分科会では次のように整理されました。

1.養成しようとしている「理想の手話通訳者像」とは?

2.奉仕員と通訳者養成のそれぞれの社会的な役割を踏まえた運営体制について

(1)開催地域のかたよりの問題

(2)不十分な予算(指導者の過大な負担)と有料化のあり方の問題

(3)受講生レベルのバラツキの問題

(4)市町村による対応の格差の問題(奉仕員養成との兼ね合い)

(5)受講試験の問題

3.新カリキュラムに沿った指導・テキストについて

(1)指導技術・理念のバラツキ(例・声の有無)

(2)実習の困難さ(場面設定、指導者不足、評価の困難性)

(3)実習におけるプライバシー確保(守秘義務)との兼ね合い

(4)指導者間の共通認識の不足

(5)要約技術の盛り込み方

(6)ロールプレイのあり方(指導技術のレベルアップ方法)

(7)副教材の充実

(8)通訳現場の声を養成のどう反映させるか

(9)わかりやすい通訳技術の確立

以上です。